訪問看護師が求められるスキル

訪問看護師が求められるスキル

筆者が初めて訪問看護を行い真っ先に感じた事は、コミュニケーション能力が最も重要でることと、利用者さんから質問されたことを相手が理解できるようにかみ砕いて説明する力が必要だという事です。
元々、筆者は人との関わりが苦手で話下手なことから、かなり苦戦しました。
しかし、在宅では話す事から始まるため、逃げてばかりではいけない状況でした。仕事ができない状況になってしまうのですから…。
ここでは、訪問看護師が求められるスキルとして重要な点を、筆者が乗り越えた経験を踏まえてお話ししたいと思います。

医療や看護の知識

訪問看護では、体の仕組みや病気の事、身体状態の変化の見立てなどを利用者さんや家族へ理解しやすいように説明しなければなりません。 例えば、胃がんの末期状態の利用者さんが在宅で過ごしているとします。終末期なので、最期を過ごす場所は本人の希望で病院と決めていますが、残された時間を家族と一緒に自宅で過ごしたいという事で一時退院してきました。そんな中、足には浮腫みができて、食事も喉を通らなくなってきました。お腹も少しずつ大きくなってきたような気がします。そして急に吐血したと家族から訪問看護師へ連絡がありました。 あなたが訪問看護師なら、この状況をどのように家族へ説明するでしょうか。 まず、一番大事なことは訪問看護が開始になった際に、病院で検査した採血やレントゲンなどのデータがあれば情報収取します。また、医師からはどのように説明を受けているのか、家族や本人の病気への認識はどうなのかを把握します。その上で、訪問看護が定期的に身体状態を看てフィジカルアセスメントをした結果、考えられる病状や身体状態の変化、さらには今後起こりうる可能性のある症状を予測して家族へ説明する必要があります。 説明をするにはもちろん、病気の事や体の事を深く広く勉強して自身でも理解しておかなければなりません。自分でも理解していなければ、分かりやすく病気の事を説明するのは困難です。この例から、胃がんの特徴や、考えられる症状、浮腫のメカニズムを訪問時から説明しておく必要があります。吐血も胃がんの症状の一つですが、予め説明をしていれば家族も慌て混乱するという事態は避けられます。また、説明を受けていない症状が出現した場合家族は「家に来たから急変した」と真っ先に思ってしまうものです。利用者さんがもし亡くなった後に、家族は家に連れてこなければよかったと自責の念が残ってしまいます。 がんは治療をしなければ少しずつ進行します。検査する医療機器がない在宅だからこそ、看護師が目や手や耳でフィジカルアセスメントをした上で分かりやすいように説明する事が重要です。病気や人間の身体、症状のメカニズムはずっと変わらないものなので、知識を増やしておくことが重要です。

説明方法

説明する相手は医療の知識がない患者さんや家族です。中にはネットで情報を得ていることから、医療関係者でなくても知識がある家族もいます。その家族の理解度に応じた説明方法は大事になります。また、身体状態の変化や起こりうる症状の説明は家族や利用者さんだけに説明することもあれば、ケアマネジャーやヘルパー、利用者さんが施設に入所していればその施設のスタッフへ説明する必要があります。 筆者は人前で話すことが元々苦手でしたが、先輩がどのように説明をしているのか見学をさせてもらい、自分自身が勉強した内容を付け加えたり、家族が理解しやすそうな内容を付け加えたりして自分自身の説明方法を確立していきました。沢山の利用者さんや家族と関わり、その上で毎回どのように説明するか考えて実践することで、相手が理解しやすい説明方法を自分なりに確立できたと思っています。やはり、苦手分野でも逃げずに克服できるように取り組むことで克服ができます。様々な利用者さんはいますが、分かりやすく正しい説明をすると信頼関係も築けます。それらは訪問看護としてのスキルアップにも繋がりますし、看護師としてのやりがいに結びつくことだと思います。

その家族のニーズに寄り添った看護

先ほどまで「説明が重要」とお話してきましたが、中には何も聞きたくないという家族もいました。本当に訪問看護を行うと、様々な家庭がいるものだなと感じます。何も聞きたくないという家族にはあえて何も話さないという手段をとる事もあります。しかし、情報がない状況で病状が不安定な場合は家族にとって常に不安と隣り合わせなので、その場合、訪問診療医やヘルパーと協力します。また、他に連絡が取れるような家族がいればそちらへアプローチします。 その家族のニーズに寄り添うには、様々な方法で看護師も働きかける必要があるのです。そのような事から、訪問看護はルーティンワークがほとんどないため、その家族の希望を叶えるための方法はその家族にしかないところも訪問看護の楽しさだと感じます。 まずは、その家族や利用者さんがどのように自宅で過ごしたいかを聞くこと、そのために看護師は何が出来るのかという事を把握しておく必要があります。それを叶えるためには、看護師だけの力では難しい為、親族で連絡が取れる人はいるのか、家族関係はどうなのかなど詳しい家族情報も知っておく必要があります。もし、看護師が計画立てていることが、その家族のニーズに適していなかったらすぐに諦めるのではなく、知り得た情報網の中からどうやってアプローチするかを考えることも重要です。

多職種との連携

訪問看護師は全て1人で行うということはありません。 他事業所の医師、ヘルパー、リハビリスタッフと連携をとります。また、先ほど胃がんの利用者さんの例を出しましたが、病状の説明をした際には必ずどのように説明したのか、医師へ報告します。なぜなら、医師が訪問した時に状態の変化があるのか医師もまた把握しやすく、看護師が説明した内容から引き継ぎ説明をしてもらえることで、家族も「あれから状態が少しずつ変化しているのだ」と把握しやすくなります。医師と看護師が同じ見立てなら、家族も在宅での療養生活に対して不安が軽減することでしょう。 これら、在宅で必要な広く深い医学的な知識、身体状況の見通しから、在宅で利用者さんと家族はどのように過ごしたいのかを把握し、多職種間でそのニーズに答えられるように連携をとるというこの一連の行動を繰り返し行う事で、筆者も苦手だったコミュニケーションが克服できました。もちろん、失敗から苦情があったことも事実ですが、「なぜそれがダメだったのか」「次はどうすればよいのか」と立ち止まって振り返りを行いました。仕事をする上で、同じパターンはありませんが、必ず似たような状況はあったため、失敗を生かすことが出来るのです。利用者さんとの一つ一つの出会いが、訪問看護師にとって勉強するチャンスであり、その積み重ねがスキルの向上に繋がるのではないでしょうか。