在宅でのお見取りへの援助

在宅でのお見取りへの援助

「残された時間を自宅で過ごしたい」「辛い治療はもうやめて、家でのんびり過ごしたい」という希望を持ちながら、がんの終末期を自宅で過ごす利用者さんやその家族は多くいます。その際に重要な役割を担うのが、訪問看護師なのです。また、訪問診療医、訪問薬剤師の存在も重要です。
ここでは、筆者が経験した在宅でのお見取りの実際とその援助についてご説明したいと思います。

がん終末期の患者さんは病院との連携も重要

自宅でお見取りを考えている家族がいる場合、そのほとんどが病院からの紹介になります。 状態が徐々に低下していき、治療の効果が期待できない場合、病院では病状説明を行い「このまま病院で最期を迎えるか」「自宅で最期を迎えるか」という選択肢を提案する場合があります。 後者を選んだ際には、ソーシャルワーカーや退院調整看護師が、介入してくれる訪問診療医や訪問看護、介護ベッドの手配などの調整を行うと同時に、在宅での生活に関する説明を家族へ行います。 退院後に訪問するステーションや訪問診療医が決定したら、必要に応じて退院前カンファレンスを行います。 そのカンファレンスでは使用している薬剤や緊急時の対応などを病院と情報共有します。 また、退院前カンファレンスのメリットとして、退院前から訪問するスタッフが顔を合わせておくことで、家族や利用者さんは在宅への不安の軽減にもつながります。

在宅導入時の看護

利用者さんが退院すると、訪問診療医と訪問看護師でメインに看ていきます。 がん性疼痛が悪化した場合も、在宅で連携をとり薬剤の増量や変更などが検討されます。 一旦病院とは切り離されますが、利用者さんが「やはり病院に戻りたい」という気持ちが出てきた場合は、病院もすぐに対応をしてくれます。 訪問看護師は、状態の把握や保清、環境整備など自宅で安心して過ごせるような援助を行います。 病院看護と違う点は、病院では患者さんを看る視点が体のことだけであるとすると、在宅では限られた今という時間で体だけではなく、住宅環境や家族、食事や入浴様々な視点から利用者さんを看てマネジメントをする必要があります。 訪問看護は制度上、30分、60分、90分と訪問時間が決められています。 病院ならいつでも患者さんに会えますが、訪問看護はその決められた時間で対応し、さらには症状を予測しておく必要があるのです。 筆者もこの看護展開が早くて内容も濃い為、抜けている事や必要な情報を得られておらず、緊急時に家族に連絡が取れないという大変な思いをした経験があります。 しかし、訪問看護は大変な時もありますが、家族に聞くこと、利用者さんの状態を看る視点、今後の予測される症状などを整理しておけば、全く苦にはなりません。 自分でも聞くこと看ることを把握しておけば、徐々に訪問看護導入時の看護にも抜けがなく対応ができます。 これまで看護師の働き方を説明してきましたが、退院後は家族がメインで介護しなければなりません。 家族が一番に疑問と不安があるため、必ず訪問看護師はそれらに対応する必要があります。 例えば、訪問看護師がいない時の対応で「もし~~のような症状が出たら、〇〇〇を飲ませてください」というようにあらかじめ考えられる症状とその対策を説明しておけば、利用者さんも苦痛を我慢せず、家族の力で緊急時の対応が出来ます。 しかし、その場合は家族任せにせず、訪問看護師も緊急訪問が必要な状況なのか、電話だけでのフォローでよいのか判断が必要です。 その積み重ねがあって在宅では利用者さん、家族と信頼関係が生まれ、訪問看護師は頼れる存在になります。

本当に点滴はしなくていいの?

がんが進行してくると、人は食事や水分を食べられなくなってしまいます。 そんな状況で家族は「食べないから元気が出ない」「もっと食べてもらわないと辛くなるのではないか」と心配します。しかし、人の体は最期を迎えるにあたり臓器の機能も少しずつ低下しており、食べ物を摂取しエネルギーを必要としなくなります。 「こんなに痩せて…点滴をして欲しい」と訴えてくる家族はいますが、逆にむくみに繋がったり、心臓の機能への負担も考えると、点滴が利用者さんの苦痛を増強してしまう可能性があるため看護師はお勧めしていません。しかし、どうしてもお願いしたいという希望があれば投与することもありますが…。 訪問看護師は家族や利用者さんの希望を第一に優先した対応を行いますが、医療者としての知識や今後予測できる症状を考え、正確な情報を家族へ提示した上で、点滴をするかしないかを決めます。 筆者は病院と在宅でのお見取りを両方経験しましたが、病院では治療を目的としなければ入院できない為、お見取りを迎える患者さんに対して少量ずつ点滴を投与し最期を迎える場合がほとんどです。 その場合、やはり顔に浮腫みが残っていたり、最期苦しかったのかなと思わせるような表情をしている事がほとんどでした。 在宅では、最期の最期まで点滴のデメリットを家族が理解した上で希望する人はいない為、投与しながら最期を迎えた利用者さんを看たことはありません。 皆さんが自然でその人らしく最期を迎える姿は、なんだか眠っているような、微笑んでいるような安心した姿です。

辛い状況を乗り越えて得た看護師のスキル

終末期を在宅で迎える利用者さんとその家族を陰で支える看護師の存在は、家族にとって大きな存在であり、重要な役割を担っていることが分かります。 看護展開が早く、色々な角度から利用者さんとその家族を看て、アプローチして、在宅でのお見取りを支えることは、訪問看護師にも大きなエネルギーが必要です。 実際、利用者さんの自宅で看護を提供していると、その家族に感情移入してしまい、死別することが筆者自身も辛いと感じることは多くありました。 悲しみが多いと仕事に対してもストレスが多かったように思います。 しかし、お見取りの看護を経験する上で、その利用者さんや家族との関わりや死別した悲しみを経験することで、看護ケア一つ一つに丁寧で優しいケアが生まれ、コミュニケーションにも深みが増すと感じています。何より、家族には沢山感謝される場面は多い為、訪問看護師へのやりがいを感じます。 このような安らかな表情で最期を迎えた利用者さんの家族は、「心から自宅に帰って来て良かった」と話します。 在宅での介護は、家族にとって大変だと感じたり、やっぱり病院に戻りたいと弱音を吐いてしまう事もあります。 そんな時は、訪問看護師がしっかり話を聴き、その場、その時の家族の考えに流されない対応が必要になります。 例えば、家族が在宅でお見取りを希望して退院してきたのにも関わらず、利用者さんはせん妄がひどく家族も疲労困憊状態だったら、入院させたいと思うのは当然です。 まずは、看護師は症状コントロールを検討したり、介護の方法を説明したりと、色々な角度から家族へのアプローチが必要です。