2023年(2024年3月29日日本看護協会発表 病院看護実態調査の結果と考察

2023年病院看護実態調査の結果と考察

イントロダクション

2023年の病院看護実態調査は、日本看護協会が毎年実施する重要な調査であり、看護職員の需給動向や労働環境、看護業務の実態を明らかにするものです。今年の調査では、新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く反映されており、看護職員の離職率や給与、メンタルヘルス対策についての詳細なデータが集められました。

特に注目すべきは、看護職員の離職率が依然として高い水準にあることです。正規雇用の看護職員の離職率は11.8%、新卒採用者は10.2%、既卒採用者は16.6%に達しており、職場環境の改善が急務となっています。離職理由には、健康上の問題や職業適性への不安が多く、メンタルヘルスの重要性が再認識されています。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で臨地実習が制限された新人看護職員に対して、技術演習やeラーニングを強化する取り組みが行われました。夜勤時の負担軽減策として、独り立ちまでの期間を延長するなどの工夫も見られます。

さらに、看護補助者の離職率も高く、特に非正規雇用者では25.5%と著しく高いです。このため、看護補助者の確保や定着に向けた研修や求人活動の強化が求められています。

看護師の給与については、新卒や勤続10年の看護師の基本給および税込給与総額が前年よりも増加しており、処遇改善の一環として評価されています。

全体として、今回の調査は看護職員の離職率や給与、労働環境の現状を詳しく示しており、今後の改善策を検討するための重要なデータを提供しています。看護職員の働きやすい環境づくりが引き続き求められます。


看護職員の離職率

正規雇用看護職員の離職率

  • 11.8% (昨年度比0.2ポイント増)
    • 離職理由: 健康上の問題、職業適性への不安、上司・同僚との人間関係など。特に精神的疾患による離職が多い。

新卒採用者の離職率

  • 10.2% (昨年度比0.0ポイント減)
    • 初めて離職率が10%を超えたのは2005年からであり、それ以降高止まりしています。

既卒採用者の離職率

  • 16.6% (昨年度比0.1ポイント減)
    • 経験者でも離職率が高いことが課題となっています。

新人看護師の年度内離職率

大学卒

  • 9.7% (学校養成所別で最も低い)

2年課程

  • 12.1% (学校養成所全体の平均を上回る)

新人看護師の離職率は、教育機関別に大きな差があり、特に大学卒業者の離職率が最も低く、教育内容やサポート体制が影響している可能性があります。


教育・訓練の強化

新型コロナウイルス感染症の蔓延により、臨地実習の中止や制限が多くの新人看護職員に影響を与えました。これに対処するため、多くの病院が教育・訓練の方法を見直し、以下のような取り組みを強化しました。

  • 技術演習: 48.6%の病院が技術演習を強化しました。これは、実地経験が不足している新人看護職員が必要なスキルを身に付けるための重要な方法です。
  • 技術チェック: 43.0%の病院が、検査や処置の独り立ちまでの技術チェックを行っています。これにより、新人看護職員が安全かつ効果的に業務を行えるようになります。
  • e-ラーニング: 37.8%の病院がe-ラーニングを導入し、オンラインでの学習機会を提供しています。これにより、感染リスクを避けながら必要な知識と技術を習得できます。

夜勤配置の配慮

新型コロナウイルス感染症の影響で、夜勤時の負担軽減策も重要なテーマとなりました。特に、新人看護職員に対して以下のような配慮が行われています。

  • 独り立ちまでの期間を延長: 43.9%の病院が夜勤帯に一人カウントとして配置するまでの期間を延長しています。これにより、新人看護職員が十分な経験を積んでから独り立ちできるようにしています。
  • 受け持ち患者数の制限: 21.8%の病院が、独り立ち後も受け持ち患者数を少数に留める期間を設けています。これにより、過度なストレスや負担を軽減し、質の高いケアを提供できるようにしています。

メンタルサポートの強化

メンタルヘルスの問題も深刻化しており、特に新人看護職員へのメンタルサポートが強化されています。

  • 集合研修の確保: 54.1%の病院が業務時間内に新人看護職員が集合できる場を確保しています。これにより、同僚との交流や情報共有が促進され、孤立感が軽減されます。
  • リフレクション時間の確保: 50.8%の病院が研修時にリフレクション(振り返り)の時間を設けています。これにより、自己評価と成長の機会が提供され、メンタルヘルスの改善に寄与します。
  • カウンセリングの実施: 20.1%の病院がリエゾンナースや公認心理士による相談・カウンセリングを実施しています。専門的なサポートを受けることで、ストレスや不安の軽減が図られます。

離職率の実態

2023年の調査によると、看護補助者の離職率は非常に高く、その中でも非正規雇用者の離職率が顕著に高いことが判明しました。

  • 正規雇用: 13.6%
    • 正規雇用の看護補助者でも離職率が高く、職場の環境改善が必要です。
  • 非正規雇用: 25.5%
    • 非正規雇用者の離職率は特に高く、収入や雇用の安定性の不足が大きな要因となっています。

離職理由

看護補助者の離職理由には以下の要因が含まれます:

  1. 職場環境の過酷さ: 長時間労働や過重労働が多く、身体的・精神的な負担が大きい。
  2. 収入の不安定さ: 非正規雇用の場合、収入が安定せず生活の不安定さがストレスの原因となります。
  3. キャリアパスの不明確さ: 看護補助者としてのキャリアアップの道筋が不明確で、将来の展望が見えにくい。
  4. メンタルヘルスの問題: ストレスや職場の人間関係の問題が多く、メンタルヘルスに悪影響を与える。

確保・定着のための取組み

  1. 研修の実施:
    • 75.8%の病院が研修を実施しており、看護補助者のスキルアップを図るとともに、職場への適応を支援しています。これにより、仕事に対する自信を持たせ、離職防止に繋げています。
  2. 求人活動の強化:
    • 72.2%の病院が求人活動を強化しており、特に非正規雇用者の募集に力を入れています。求人活動の強化は、労働力の確保とともに、応募者の質を向上させることを目指しています。
  3. 正規職員としての雇用:
    • 54.9%の病院が看護補助者を正規職員として雇用することに取り組んでいます。正規職員としての雇用は、収入の安定やキャリアパスの明確化につながり、離職率の低下に寄与しています。
  4. メンタルサポートの強化:
    • 多くの病院がメンタルヘルスサポートを強化しており、定期的なカウンセリングやストレスチェックを実施しています。これにより、看護補助者が安心して働ける環境づくりが進められています。

看護補助者の高い離職率は、職場環境や雇用形態の課題を反映しています。これらの問題に対処するためには、研修の充実、正規雇用の促進、メンタルサポートの強化が重要です。看護補助者が安心して働ける環境を整えることが、離職率の低下と職場の安定に繋がります。


看護師の給与

新卒看護師の初任給

  • 高卒+3年課程卒: 204,950円(前年比+1,674円)
  • 大卒: 210,963円(前年比+1,346円)

勤続10年の看護師の給与

  • 基本給: 247,629円(前年比+859円)
  • 税込給与総額: 326,675円(前年比+2,229円)
    • 看護師の給与は基本給・税込給与総額ともに増加しており、処遇改善が進んでいます。

タスク・シフト/シェアの推進

取り組み状況

タスク・シフト/シェアは、医療現場における業務の効率化と負担軽減を目的としています。2023年の調査では、以下のような取り組みが進められています:

  1. 院内での取り組み開始: 61.1%の病院がすでにタスク・シフト/シェアを導入しています。これは、看護職員の業務負担を軽減し、他職種と協力して業務を進めることを目指したものです。
  2. 検討中: 16.9%の病院がタスク・シフト/シェアの導入を検討しています。これは、現場の状況に応じて導入するかどうかを慎重に判断している段階です。

タスク・シフト/シェアの内容

医療業務のシェア

  • 診療補助: 看護師が行っていた一部の診療補助業務を医療事務スタッフや看護補助者にシフトする取り組み。
  • 処置業務: 簡単な処置や検査業務を他職種に分担し、看護師の業務負担を軽減。

介護業務のシェア

  • 身体介助: 身体介助業務を介護福祉士や介護補助者にシフトすることで、看護師の専門的な業務に集中できるようにする。

推進の課題

  1. 業務の標準化: 業務内容を標準化し、どの職種がどの業務を担当するのかを明確にする必要があります。これにより、業務の分担がスムーズに行えるようになります。
  2. 教育・研修の充実: タスク・シフト/シェアを効果的に進めるためには、各職種に対する教育・研修が必要です。新しい業務を担当するスタッフに対して、必要なスキルと知識を提供することが重要です。
  3. 法的整備: 業務分担を進めるためには、法的な整備が必要です。特に医療行為に関する法律や規制を見直し、安全に業務をシフトできるようにすることが求められます。
  4. 職種間のコミュニケーション: 職種間のコミュニケーションを強化し、協力して業務を進める体制を整えることが重要です。これにより、業務の分担が円滑に行われ、医療現場の効率化が図れます。

タスク・シフト/シェアの推進は、看護職員の業務負担を軽減し、医療の質を向上させるために重要です。しかし、取り組みを進めるためには業務の標準化、教育・研修の充実、法的整備、職種間のコミュニケーションが必要です。これらの課題を克服することで、効果的なタスク・シフト/シェアが実現し、看護職員が安心して働ける環境が整えられます。


労働環境

仮眠の状況

院内ルール

  • 約56.5%の病院が夜勤時の仮眠取得に関する明文化されたルールを設けています。これは看護職員の疲労回復を促進し、業務中のパフォーマンス向上に寄与します。

仮眠時間の設定

  • 平均仮眠時間は約96.4分です。仮眠時間の確保は、看護職員の健康と業務効率を保つために重要な要素となっています。

傷病休暇とメンタルヘルス不調者の状況

連続休暇取得者

  • 傷病による連続休暇取得者は増加傾向にあり、平均17.6人です。特に精神的な健康問題が影響しています。

メンタルヘルス不調者

  • メンタルヘルス不調による連続休暇取得者は昨年度と同程度の水準です。これは、職場のストレスや人間関係の問題が依然として存在していることを示唆しています。

労働環境改善のための取り組み

  1. 勤務時間の見直し
    • 長時間労働の削減と柔軟な勤務時間の導入により、看護職員の負担を軽減することが求められています。
  2. メンタルヘルスサポートの強化
    • カウンセリングの提供やストレスチェックの実施など、メンタルヘルス対策が強化されています。これにより、看護職員が安心して働ける環境づくりが進められています。
  3. 休暇制度の充実
    • 有給休暇の取得を推奨し、休暇制度を整備することで、看護職員がリフレッシュできる環境を提供しています。
  4. コミュニケーションの促進
    • 職員間のコミュニケーションを強化し、チームビルディング活動や意見交換の場を設けることで、職場の連携を深めています。

看護職員の労働環境は、仮眠取得のルールや傷病休暇の状況など、多くの側面で改善が必要です。職場環境の見直しとメンタルヘルスサポートの強化が、看護職員の健康と業務効率を向上させる鍵となります。これらの取り組みにより、看護職員がより良い環境で働けるようになることが期待されます。


個人の感想と過去からの推移

2023年の病院看護実態調査の結果から、日本の看護職員が直面する多くの課題が明らかになりました。過去からの推移を振り返りつつ、個人の感想を述べたいと思います。

離職率の推移

過去数年間にわたり、看護職員の離職率は高止まりしています。特に新卒採用者の離職率は10%を超えることが多く、職場環境の改善が急務です。既卒採用者の離職率も高く、経験者であっても職場に定着するのが難しい現状が続いています。このことは、看護職員のストレスや職場環境の厳しさを物語っています。

給与の推移

看護職員の給与は基本給および税込給与総額ともに増加傾向にあります。新卒看護師や勤続10年の看護師の給与が増加している点は評価されますが、給与の増加だけでなく、職場環境やメンタルヘルスサポートの充実も引き続き求められます。給与の改善は処遇改善の一環として重要ですが、働きやすい環境が整っていないと根本的な問題解決には至りません。

タスク・シフト/シェアの推進

タスク・シフト/シェアの取り組みが進められていますが、まだまだ課題が残っています。他職種への業務シフトが進まない理由として、業務内容ごとに異なる課題が存在します。効率化と職員の負担軽減のために、さらに取り組みを進める必要があります。特に、業務の標準化や教育・研修の充実、法的整備が求められます。

メンタルヘルスの重要性

新型コロナウイルス感染症の影響により、メンタルヘルスの問題がより顕著になっています。メンタルサポートの取り組みが強化されている点は非常に重要であり、特に新人看護職員へのサポートが充実していることは、離職率の低下に寄与する可能性があります。メンタルヘルスの問題は、職場のストレスや人間関係の問題が大きく影響しており、今後も継続的な対策が必要です。

個人的な感想

調査結果を見ると、日本の看護職員が抱える課題の多さに驚かされます。特に、離職率の高さやメンタルヘルスの問題は深刻であり、看護職員が安心して働ける環境づくりが急務です。給与の改善も重要ですが、それ以上に職場環境の整備やメンタルヘルスサポートの充実が必要です。看護職員が健康で満足できる職場環境を実現するためには、継続的な改善が求められます。

過去からの推移を見ても、看護職員の問題は根深いものであり、一朝一夕で解決できるものではありません。医療現場の効率化と職員の負担軽減のために、今後も継続的な取り組みが必要です。看護職員の努力と献身が報われるよう、社会全体で支援していくことが求められます。


エビデンス

調査結果に基づいたエビデンスとして、以下のデータが示されています:

  • 離職率(新卒、既卒、正規雇用)
  • 給与の増加傾向
  • メンタルヘルスサポートの実施状況

調査結果の詳細については、こちらのPDFをご覧ください。

この調査結果は、日本の看護職員が抱える課題とその改善に向けた取り組みを明らかにしています。今後も継続的な改善が必要であり、看護職員の働きやすい環境づくりが求められます。

 

最後に

2023年の病院看護実態調査は、看護職員の離職率、給与、労働環境など、看護職の現状を詳しく明らかにしました。特に新型コロナウイルス感染症の影響が強調され、看護職員のメンタルヘルスサポートや労働環境の改善が急務であることが示されています。調査結果からは、看護職員が直面する多くの課題が浮き彫りになり、特にメンタルヘルスの問題や職業適性への不安が大きな要因となっています。

また、看護補助者の離職率が非常に高いことも明らかになり、非正規雇用者の25.5%という離職率は看護補助者の確保と定着が大きな課題であることを示しています。これに対し、研修の強化や求人活動の強化、正規職員としての雇用などの取り組みが必要とされています。

給与面では、看護職員の基本給および税込給与総額が増加しており、処遇改善が進んでいることが確認されました。しかし、給与の増加だけでなく、職場環境の改善やメンタルヘルスサポートの充実も引き続き求められます。

今回の調査結果は、看護職員の働きやすい環境づくりに向けた重要なデータを提供しています。これに基づき、今後の政策や取り組みがさらに進化し、看護職員がより安心して働ける環境が整備されることが期待されます。看護職の皆さんが健康で満足できる職場環境を実現するために、継続的な改善が求められます。

今後も日本看護協会は、看護職員の実態を把握し、適切なサポートと改善策を講じていくことが重要です。看護職員の努力と献身が報われるよう、社会全体で支援していくことが必要不可欠です。

その他のおすすめ記事